
あれから どのくらい 時間が過ぎただろう あっという間に月日が過ぎていった。彼の声 彼の姿 消えてしまった。
「やまちゃん うまい店 見つけたよ」ガラガラ声が電話口から 今でも聞こえてくる。実は彼 築地で夫婦で何十年も商いをしていた。身体全体にアンテナが張り込まれ 店構え 看板 ウインドウなどでたちまち アンテナがピクピクと周り あっという間に店の中に
ある時 「石さん どうして うまい店を 見つけるんだ?」と 聞いたことがあった。
「40年以上 築地で毎日 舌で においで 店構えで 見てきたらわかるよ 後 食べ終わったお客さんの顔を見ればわかるよ」 仙人みたいな彼の話に思わず 頷くこと たびたび
或る時 場内の卸問屋の商いにつれてもらったとき 売る 買うの 一瞬のタイミングにかける職人の迫力に足が止まり 呆然と立ち止まり前に歩けなかった小生の肩を軽くたたき
「山ちゃん 身体がガチガチなってるよ」 笑いながら言った彼のガラガラ声 時々 あの時の彼のガラガラ声が頭の上から聞こえてくる
「やまちゃん 今日 時間がある? うまい店 見つけたんだ 行こうぜ」
