伊香保温泉ー第3回

花代は1時間30分が基本である。
後は延長するか、断るかどちらかである。
酌婦にとり、延長して初めて懐の具合が良くなる。

一人で3人の酔客を相手にして1時間30分の宴会。
言葉は酔ってる様子を見せるが、体はしっかりと仕事をしている。

彼女から延長して欲しいの言葉が出ない。
甘えることもなく、後はお客様の気持ち次第であると仕事への
プライドが見える。
そういえば、我々に大いに飲ませているが彼女の口には
ほとんどアルコールは運ばれていない。
凛とした生き様に我々男度もが太刀打ちできない奥深さが見える。

そんな彼女にどこか外で歌でも歌いに行かないかと誘いの言葉を投げる。
温泉場での2次会といえばそのまま宿泊ホテル内のクラブで飲みなおすことが
ほとんどであるらしい。
夜の温泉場の風情を感じることなく、ホテルで翌朝まで過ごすことに
なんとなく違和感を感じていた。
風呂上りのほてった体、そしてお酒の回った心を温泉場の夜の風を感じながら
見知らぬネオンが瞬く扉を開ける。
そんな温泉場の風情を感じたいため、彼女に外への案内を頼んだ。
「エッ、外で飲もうというお客様はこのごろ少ないのよ」

どこの店に連れて行かれるのか解らずままに、夜の帳の中に
風に吹かれ、坂道を登っていった。
やがて、坂道の途中にネオンが見え始めた。
6軒ほどの入り口が狭い店が肩を並べて並んでいる。
それぞれに似たようなネオンの店の名前がいつくるかわからないお客を
待っている。
一人ではなかなか入れない怪しげな店の扉を開けた。
がらんとした店の中。
入り口のすぐ傍にカウンター。
5人も席を並べれば一杯である。
店の奥は赤茶らびけたソフアーが並んでいる。
そしてその正面には大型のカラオケ用のTVがこちらを見ている。

冷え切った空気がいまの時代を物語っている。
「いらっしゃいませ」
カウンターの中から声が聞こえた。

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